椿餅 いのくま製
つぎつぎの殿上人は、簀の子に圓座めして、わざとなく、椿もちひ・梨・柑子やうの物ども、さまざまに、箱の蓋どもに取りまぜつつあるを、若き人々、ぞぼれ取りくひ。
この句は源氏物語の中の蹴鞠を終えた若い人々が椿餅を食べる場面です。
蹴鞠は革製の鞠を蹴り上げて遊ぶ競技です。
スポーツをして汗をかいたあと、一息ついて椿餅や、梨・柑橘類をおやつ感覚で味わっているのでしょうか。
この椿餅『源氏物語』の注釈書『河海抄』によって椿の葉で餅を挟んだものだったとうかがえます。
当時は砂糖が高価な輸入品で甘味には甘葛が使われていました。
おなじみの柏や桜の葉ではなく、椿の葉を使った餅が登場するとは意外な感じも致しますが興味深いのは椿餅が蹴鞠に用意される定番の食物であったこと。
先の『河海抄』に「鞠のとろろにて食する也」とあるほか、時代は下がって江戸時代初期の『蹴鞠之目録九拾九箇条』(1632)にも「鞠場へ可出物之事」として名前が見えます。
淡交タイムス2月号より
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